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朗読二宮隆
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グスコーブドリの伝記

宮沢賢治

一 森

 グスコーブドリは、イーハトーヴの大きな森のなかに生まれました。おとうさんは、グスコーナドリという名高い木こりで、どんな大きな木でも、まるで赤ん坊を寝かしつけるようにわけなく切ってしまう人でした。
 ブドリにはネリという妹があって、二人は毎日森で遊びました。ごしっごしっとおとうさんの木を挽く音が、やっと聞こえるくらいな遠くへも行きました。二人はそこで木いちごの実をとってわき水につけたり、空を向いてかわるがわる山鳩の鳴くまねをしたりしました。するとあちらでもこちらでも、ぽう、ぽう、と鳥が眠そうに鳴き出すのでした。
 おかあさんが、家の前の小さな畑に麦を播いているときは、二人はみちにむしろをしいてすわって、ブリキかんで蘭の花を煮たりしました。するとこんどは、もういろいろの鳥が、二人のぱさぱさした頭の上を、まるで挨拶するように鳴きながらざあざあざあざあ通りすぎるのでした。
 ブドリが学校へ行くようになりますと、森はひるの間たいへんさびしくなりました。そのかわりひるすぎには、ブドリはネリといっしょに、森じゅうの木の幹に、赤い粘土や消し炭で、木の名を書いてあるいたり、高く歌ったりしました。
 ホップのつるが、両方からのびて、門のようになっている白樺の木には、
「カッコウドリ、トオルベカラズ」と書いたりもしました。

青空文庫

Nao